Bechgaard塩やMX鎖を記述するモデルとして、1次元2バンドハバ-ド模型をHartree-Fock近似したものが用いられることが多い。本研究では第1歩として1バンドモデルを採用した。 第1に、2個のソリトンの衝突過程の研究をした。本研究代表者による1992年度の研究によると、正と負の電荷を帯びたソリトンを正面衝突させるとソリトン間に斥力、スピン反平行のソリトン対では引力、が働くことがわかっていた。今年度は、同種電荷のソリトン対、スピン 平行のソリトン対、の衝突を調べ、いずれの場合にも斥力が働くことがわかった。 第2に、2個のスピン・ポーラロンの衝突過程の研究をした。鎖間相互作用を外部磁場として取り入れた。同種電荷を帯びたスピン反平行のポーラロン対を衝突させると、バイポーラロン(2個のポーラロンの束縛状態)となる。ハバ-ド模型に隣接サイト間クーロン斥力Vを取り入れると、ポーラロン間相互作用は斥力になる。さらに、サイト非対角形の電子・格子結合lambdaを付け加えると、相互作用は再び引力となる。このポーラロン間相互作用は次のように解釈できる。ポーラロンの近傍では、局所的に、反強磁性秩序がへこみ、電荷密度波秩序が立つ。この電荷密度の様子がスピン上向きのポーラロンと下向きのポーラロンでは異なる。上向きスピンのポーラロンで奇数番サイトに電子密度が高いとすると、下向きでは偶数番サイトで高い。この特徴的な電荷分布のため、オンサイト斥力Uは殆ど効かないので、Uだけのモデルでは、反強磁性秩序のへこみを共有することからくる引力がポーラロン間に働く。逆に、この電荷分布では隣接サイト間斥力Vが大幅に効くので、Vは相互作用を斥力に変える。ポーラロン近傍に立つボンド次数波秩序は、ポーラロンが近づくに連れ協調的に増大する。ボンド次数波と結合しているlambdaは、電子系のエネルギーを下げることによりポーラロン間に引力を働かせる。 計算の方法論という観点からは、鈴木により提唱されたフラクタル経路積分法(指数演算子の高次分解法)を時間依存HF方程式に適用し、その有用性を確かめた。
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