本年度の研究実績は大きく二つに分かれる。一つ目は脂質二重膜におけるリップル相のモデルの構成で、二つ目は界面活性剤で包まれた液滴からなる分散系の有効粘性の計算である。一般に脂質ニ重膜を構成する炭化水素鎖は構造相転移を示し、高温度側では炭化水素鎖が乱れた液晶相、低温度側では炭化水素鎖が配向した結晶相をとる。ある条件のもとではこのニ相の間で、膜面が周期的にうねったリップル相をとることがある。我々はこの相転移を説明する現象論的モデルを構成した。ここでは膜面の内部自由度とニ重膜の曲率エネルギーを結合させることにより、上記の相転移を定性的に説明することに成功した。二重膜を構成するそれぞれの膜面が内部自由度の関数である自発曲率をもち、それらを裏あわせに接合すると系はエネルギー的にフラストレートした状態にあることになる。このエネルギーの解放がうねり構造を作る原因であるというのがモデルのあらましである。その帰結として相転移は一次転移であること、ある条件下でリップル相が出現しないこと等が示された。これらは実験結果と一致する。我々はさらに、このモデルに基づいた計算機シミュレーションを行い、実際に周期構造が出現することも示した。一方エマルションやサスペンションのような分散系では、系の有効粘性が溶媒の粘性より大きくなることが知られているが、我々は分散している球形液体が界面活性剤で覆われている場合について調べた。膜面での連続の式や力の釣合を考慮することにより、動的粘性の一般表式を解析的に求めた。この結果、膜面が圧縮性をもつと、剛体球の場合と同じ結果に帰着するが示される。またセルモデルを導入することで、濃度が高い場合での一般的表式も計算した。
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