今年度は特にカオス多体系の中に出現するパターン(空間秩序)に焦点をあてて研究をすすめた。まず、既に知られている現象の中で、私の問題意識と関連するものがあることがわかった。特に、次のニつは今後の研究をよりスケールアップしていくことになるだろう。 (1)粉体多体系で観測されている対流は「カオス多体系での空間秩序」とみなすことがでさる。対流がない相での揺らぎはカオス揺らぎであり、熟平衡系でのゆらぎとは異なり、むしろ乱流揺らぎに近い。カオス多体系の立場からこの点を再検討している。 (2)熱対流系でみられるソフト-ハード乱流転移についても、平均流の発生という観点から見ると、カオス多体系における空間秩序の発生の問題として捉えることができる。境界層から出るプルームが平均流として循環するには非圧縮性が本質的であることがわかった。この点は、最小モデルを提案する時に有用な情報になる。 私自身は、カオス結合写像(CML)をもちいてこの問題を取り組むことにした。従来の、1成分CMLでは、空間秩序は発生しないことをまず明らかにし、ついで、2成分CMLにより最小モデルの構築の取り組んだが、現在でも、最終版を得るに至っていない。しかし、その過程でいくつかの重要な知見は得られた。特に、カオス揺らぎと秩序の明確な分離が可能かどうか、という重大な問題が存在することが認識できた。勿論、いくつかの簡単な場合は、揺らぎと秩序は分離している。それに反して、その分離が明確でなく、かつ、それを単に揺らぎと同定するよりも、むしろ、擬秩序というもので捉えたい系も存在することがわかった。このような新たな問題設定に至ったのは大変重要なステップである。
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