今回の研究では、高分子の結晶化過程における表面核形成過程の解明が主目的であった。高分子の結晶は、通常の条件下では、薄坂上の外形をもつ微結晶として結晶化する。また、高分子鎖は結晶の板面において(分子鎖長)/(結晶の厚さ)に対応する回数だけ折り畳まれて結晶化しており、この結晶成長は成長面上での表面核形成により律速されている。そこで今回の研究では、薄板ラメラの厚さを原子間力顕微鏡で精密測定することによって、表面核形成機構にアプローチした。 今回購入した恒温槽及び温度制御装置は試料の結晶化に使用した。また、位相差顕微鏡用の対物レンズは単結晶の観察に用いた。実験は、分別ポリエチレンをキシレン希薄溶液から等温結晶化させて、そのラメラ状単結晶の厚さを原子間力顕徹鏡によって測定し、厚さの結晶化温度依存性および1枚の単結晶内部での厚さ分布について検討した。 結晶の厚さの温度依存性に関しては、従来の小角X線散乱で得られた結果と非常によく一致していた。単結晶内部での厚さ分布も一様であることが分かった。ただし、成長セクターごとに単結晶の厚さが不連続的に変化することが見出された。このような単結晶内部での厚さ分布に関する報告は、今回の原子間力顕微鏡を用いた研究が初めてのものである。 セクターによるラメラの厚さの違いは、それぞれのセクターの成長面上での表面核形成過程が異なることを示唆している。具体的には、高分子鎖が折り畳まれる際のエネルギー不利がセクターごとに異なることを意味する。これは高分子鎖の折り畳みが成長面に沿って規則的になされるものであることの実験的根拠となる。今後、より詳細な実験を行い定量的な議論を進める予定である。
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