密度揺らぎの振幅に関する研究としてはまず、観測結果を再現する正しい振幅を予言するインフレーションの素粒子モデルの構築を行った。具体的には、素粒子の標準理論を超える物理を示唆するニつの実験事実、すなわち、加速器実験による超対称大統一理論の示唆とMSW機構による太陽ニュートリノ問題の解決に着目し、右巻きマヨラナニュートリノを含む超対称性理論を取り上げ、その枠内で理論の構築を行った。その結果、右巻きニュートリノのスーパーパートナーがインフレーションを起こすスカラー場として理想的な性質をもっていること、そしてその質量を10^<13>ギガ電子ボルトにとれば、COBEの観測結果を再現する密度揺らぎの振幅が得られることがわかった。 次に、超対称性理論の下ではバリオン数やレプトン数をもつスカラー場が存在するが、これがインフレーション中にもつ揺らぎの振幅を、これらの場がバリオン数やレプトン数を保存する場合と保存しない場合について計算した。 その結果、いずれの場合も宇宙論的に有用な揺らぎは生成しないことが判明した。これに関する論文は現在投稿中である。 密度揺らぎの統計分布に関する研究としては、位相的欠陥による構造形成論の例としてテクスチャーモデルを取り上げ、それが予言する密度揺らぎの統計分布を、数値計算の結果に基づきさまざまな手法で解析した。 とくに、揺らぎの高次相関関数が観測結果と一致する階層的な形をもっていることを見いだした。また、従来テクスチャーモデルは非ガウス型の揺らぎを生成し、これが構造形成を早めるのに役立つと考えられていたが、スカラー場の微分項の揺らぎを正しく評価することにより、実際の揺らぎはほぽガウス型であり、これまでの定説が誤りであることを示した。
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