平成5年度は、第1に培地の栄養拡散が糸状菌コウジカビのコロニー形態に及ぼす影響を調べる目的で、合成寒天培地のグルコース(栄養)濃度(5〜0.01wt%)と寒天濃度(培地硬度)(1.5〜0.15wt%)を変量とした培養実験を行った。この結果、各条件下で再現性のある特徴的なコロニーパターンが得られ形態的な相図の形にまとめられることが判った。この事から糸状菌のコロニー成長には環境条件に対応いた形態選択原理が存在することが示唆された。第2に、固体寒天培地(寒天1.5%)上ではコンパクトなコロニー形態が生ずるが、栄養濃度の増大及び減少に伴って成長界面の乱れが増大し、中間濃度(グルコース0.5wt%)で最小になった。さらに、界面の乱れは自己アファインスケール性を持ち、栄養濃度に応じた乱れ指数を示すが、上の栄養濃度の中間領域では最小値を示し、ロングレンジに界面の成長の揺らぎが抑制されていることが解った。これは菌糸系の競合過程で、貧栄養下での成長サイトの淘汰と、余剰栄養を利用しての高成長確立の強勢な菌糸系の発生の効果とのクロスオーバーの存在を示唆する。第3に、半液状培地(寒天0.15wt%)では栄養濃度の減少と共にコロニが樹状化し、コンパクトにコロニーから、貧栄養ではフラクタルな樹状コロニーが生ずることが見出された。コロニー近傍の定点での胞子発芽率からコロニー成長に伴う培地表面の状態変化を調べることにより、コロニー発生後樹状化が起きるまでの期間に培地表面の成長好適度が急速に低下することが見られた。さらに、コロニーのフラクタル次元が培養日数の経過と共に減少することから、成長サイトが次第に局所化し、少数になることが解った。以上から、コロニーの樹状フラクタル化は成長に抑制的な媒質中で、栄養分の拡散に律速されながら強勢な成長サイトを局所的に発生していく空間開拓戦略であることが示唆された。
|