イオントラップは電磁場を用いてイオンを狭い空間領域に長時間閉じ込める技術である。閉じ込められた原子分子イオンについて、レーザー・マイクロ波多重共鳴による光学的検出を行うことにより、超微細構造を高精度高分解能で測定できる。さらにイオンをレーザー励起によって準安定状態に一旦蓄積し、軌道角運動量の大きい準安定状態を起点とする分光を行えば、準安定状態の精密分光に上述の技術を適用することができる。 本研究では、申請者によって既に製作された、レーザー蒸発法で発生させた金属イオンをイオン源とするイオントラップ装置を用いて、高融点の重金属のイオンの分光を行う。バリウム、ルテチウム等のイオンはレーザー誘起蛍光法で光学的に検出されている。しかしながら光学的検出の分解能はレーザーの線幅等で限られているため、超微細構造を高精度で分離することはできない。本研究は、レーザーとマイクロ波を組み合わせて多重共鳴実験を行い、超微細構造を高分解能で測定することを目的とする。 ここで、超微細構造を高精度高分解能で測定するにはマイクロ波の周波数を高精度に安定化する必要がある。本年度は、ガン発振器で発生させた50〜70GHz領域のマイクロ波を安定化する装置の製作を行った。クライストロンで発生させたX-band(10GHz帯)のマイクロ波を周波数安定化し、さらにその数逓倍波とガン発振器のマイクロ波の周波数を比較して安定化するものである。 次にこのシステムを、原子の高励起リュードベリ状態の観測に応用した。レーザー・マイクロ波二重共鳴法により、リュードベリ状態間のマイクロ波遷移の超微細構造分裂を観測することに成功した。この方法が高分解能分光に有効であることが示されたので、今後、準安定状態の測定に適用していく。
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