主として行ったのは、1993年2月に行った、フィリピン・ルソン地震(1990年)の目撃調査から、この地震に伴なう様々な断層の動的挙動を明らかにしたことにある。この調査の第1の成果は地震時に断層の動きを直接に目撃した人を30人以上も捜し出したことである。これまでの報告ではそのような例は数件しかないので、この調査結果だけでも特筆すべきものである。さて、これらの調査を詳しくまとめてみると従来までの間接的にしか推定できなかった断層運動とは著しく異なっていることが明らかになってきた。この地震の大きさからすると、従来の推定ではある地点の断層運動の開始から終了までは、10秒近くかかるはずである。ところが、大半の目撃者はこれが1秒程度、数人は0.1秒近くという驚くほど短かい間に断層のすべりが完了したことを観察した。また断層のすべりはほぼ等速で行われたようであり、ある研究者が提示しているような、それに続くゆっくりした断層運動を観察した者は一例もなかった。これは、Haskellの古典的断層モデルが大よそ正しく、また応力降下が従来考えたものより、ひとけた以上大きい1キロバ-ルを超えるものであることを示し、高周波地震波の発生に重要な制約を与えるものである。1985年メキシコ地震についてはフーリエ変換に代わる新しいデータ解析法として最近注目を集めているウェーブレット変換を用いてその近地地震記録の解析を行ない一般に考えられていた断層運動の他に、10秒程遅れて非常に応力降下の大きくしかも横ずれ成分に富んだ断層運動の存在を示した。
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