熱帯や中緯度域に比べ降水の少ない亜熱帯域に、梅雨前線帯、SPCZ(南太平洋収束帯)、SACZ(南大西洋収束帯)という顕著な降水帯が存在する。これらの降水帯の維持過程を熱帯モンスーンとの関係に注目して調べた。本年度の研究成果は以下の通り。 (A)季節内変動の時間スケールにおける亜熱帯域の降水帯と周囲の環境場の関係を、複数年の全球客観解析データやOLRデータを解析し検討した。亜熱帯域の降水帯は10日以上の時間スケールで顕著な季節内変動を示し、降水帯が活発になるのはつぎの2条件、すなわち(1)亜熱帯高気圧の西側の縁辺をまわり低緯度側から降水帯に吹き込む強い極向きの下層風があり、(2)亜熱帯ジャットが亜熱帯域(緯度30〜35度)にある、が同時に満たされる場合であった。熱帯モンスーンは、熱源として亜熱帯高圧帯内に低圧部をつくることで極向きの下層風の生成に重要な役割を果していた。 (B)モンスーンと降水帯を結びつける物理過程を調べるため、地形等の影響が無視できる水惑星大気循環モデルを用いて数値実験を行った。現実大気では、モンスーンは熱帯域でも特に活発な対流域を赤道からやや離れた領域に伴うが、水惑星モデル上でそのような対流域をつくるため、熱帯の海域にパッチ状の暖水域を与えそこに活発な対流域をつくった。暖水域を赤道上に置くと亜熱帯域には弱い降雨域しかできないが、緯度10度に置くと亜熱帯域に顕著な降水帯が形成された。この降水帯は、亜熱帯ジャットのトラフの前面でジェットに沿って形成され、亜熱帯高気圧西緑の極向きの下層風の吹き込みを受けており、現実大気の亜熱帯域の降水帯によく似た性質を数多く有していた。この結果は、現実大気のモンスーンにもみられる熱帯の赤道から外れた領域の熱源が、亜熱帯ジェットのトラフや極向きの下層風の形成を通じて降水帯の維持に重要であることを示唆している。
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