研究概要 |
この研究では,1991年9月に米国で打ち上げられた上層大気観測衝星(UARS:Upper Atmosphere Research Satellite)に搭載されたCryogenic Limb Array Etalon Spectrometer(CLAES)から得られたデータにもとづいて,成層圏大気大循環および物質循環に関する研究をおこなうことを主たる研究課題とした.しかし1991年6月に起こったピナツポ山噴火の影響を取り除く作業に予想以上の時間が費やされたため,年度当初にはStratospheric Aerosol and Gas Experiment II(SAGEII)と呼ばれる衛星データの解析をおこない,その後CLAESデータの解析をおこなった. まず,SAGEオゾン鉛直プロファイルデータを用いて赤道域オゾンの長周期変動について調べた.クライマトロジカルな年変動成分を引き去ると20km以上でオゾンの準2年周期変動(QBO)が,20km以下でエルニーニョ・南方振動(ENSO)と関連した約4年周期の変動が見られる.オゾンQBOは帯状一様性が強く,力学的なQBOと密接に関連している.いっぼう,ENSOと関連した変動は大規模な東西変動と帯状一様性の強い変動の組合せからなることがわかった. 次に,CLAESの温度場データを用いた解析をおこない,これまで定点ラジオゾンデ観測から断片的にしか知られていなかった下部成層圏赤道ケルビン波の検出に衛星データを用いて初めて成功した.解析結果によれば東西波数1,鉛直波長約10km,周期約15日で東進する温度偏差が下部成層圏ではっきりと観測される.また,ケルピン波と考えられる温度偏差は成層圏下端付近の西太平洋域において局在して存在してた.この特徴はその励起のメカニズムを考える上で非常に重要な示唆を与えるものである.
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