研究概要 |
1.地表境界条件として,全てを海面として東西一様な海面水温を固定して与えた,大気大循環モデル実験を行い,以下のような結果を得た. (1)境界層内の流れは,海面水温の勾配による気圧勾配とコリオリ力および摩擦力のつりあいによっており,この境界層内の過程を通して,海面水温分布がハドレー循環の大まかな様相を決定する. (2)降水量の分布は積雲対流のパラメタリゼーションや蒸発のパラメタリゼーションに大きく影響されるが,境界層内のハドレー循環はそれによっては大きく影響されない. (3)降水の分布は,境界層のパラメタリゼーションを変えることにより,蒸発分布の変化および境界層の厚さの変化によるエネルギー輸送の変化を通して大きな影響を受ける。 2.大気大循環モデルの境界層過程のいくつかの改良を試み,現実的な境界条件の下での評価を行った. (1)乱流活動に関する雲の効果を,湿潤リチャードソン数を用いることによって評価することにより,雲水が最下層に溜ることが防がれるなど,水蒸気や雲水の分布が改良された. (2)対流混合層における非局所的フラックスの効果を,簡単なパーセル法を用いて評価するスキームを開発した.これにより,特に低緯度海上での下層雲の表現が大きく改良された. (3)境界層の高さを診断し,乱流の混合距離を境界層内とその上の自由大気とで大きく変えることにより,境界層内および自由大気の循環場の表現が共に向上することを確認した. 以上の結果から,境界層の表現,特に湿潤過程・対流過程が,水蒸気や雲水の分布,エネルギーの輸送などを通して,低緯度の大気循環場に与える影響が大きいことが明らかとなった.
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