研究概要 |
本研究では深海削掘計画第115節航海から得られたコアを用いて堆積物中に含まれる浮遊性有孔虫化石群集の解析をおこなった.その結果以下のことが明らかとなった.1)Site709Cにより得られた堆積物は前期鮮新世(N19/20帯)から中期始新世(P11帯)にわたるが,中期中新世(N8-15帯)と最後期漸新世(P22帯)はその厚さが薄くHiatusがある可能性がある.2)属レベルでみると群集の大きな変化は中期/後期始新世,始新世/漸新世,中期/後期中新世の境界に見られる.3)群集の種多様度は中期始新世を通じて緩やかに低下し,後期始新世から前期漸新世ではほとんど変化しない.後期漸新世でもやや減少するが急激な変化はみられない新第三紀になると多様度は回復し15Maまで大きくなるが,中期中新世の13Ma頃に多様度の急減がみられるその後,再び回復し後期中新世から鮮新世にかけては一時的な急減(6.2-6.4Maと5.3-5.6Maの2回)がみられるものの,多様度は大きくなる傾向がある.中期始新世および前期中新世において多様度が大きくなることは種数による要因が強く働いている.これに対し後期始新世〜前期漸新世と後期中新世〜鮮新世においては,均衡性に関する要素が多様度に大きく寄与しているため,種数の減少にもかかわらず,多様度は急激には減少しない.4)浮遊性有孔虫は水塊の表層・中層・深層にすむものに大きく分けることができる.Site709Cでは,表層種は中期始新世から後期始新世にかけて減少し,前期漸新世で最も少なくなる.その後,後期漸新世から再び増加し始め,中期中新世に至るまで群集の大部分を占めるようになる.後期中新世から鮮新世にかけては表層種は再び減少する傾向を示している.中層種は始新世から前期漸新世まであまり変化しないが,後期漸新世から徐々に減少し,N4帯付近で最も少なくなる.N5帯からは再び増加する傾向を示し,鮮新世まで続いている.深層種は後期始新世から漸新世にかけて相対頻度が高くなるが,その他の時代では一般に低い割合を占めている.中期始新世〜漸新世と後期中新世〜前期鮮新世にかけては,世界的に寒冷化を生じたことが知られているが,種数および表層種の減少はその影響が低緯度地域の群集にも及ぼされたことを示している.後期漸新世から初期中新世にかけての温暖化も種数および表層種の増加に反映されている.一方,群集構成の変化は寒冷期における表層種の絶滅とそれに続く中層・深層種の表層水塊への進出を示している.このとき表層種のニッチェを中層・深層種が均等に埋めることによって種多様度はそれほど急激に減少しなかった.温暖時にはこれらの種は中層および深層へ再び後退し,空いたニッチェを埋めるように新たな表層種の深化を引き起こしたものと考えられる.
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