揚子地塊上には、四射サンゴ類や小型有孔虫類などの海生生物群化石を豊富に含むペルム系炭酸塩岩類や、放散虫化石を産する珪質岩類が層序的に連続的に累重している。各生物群の垂直的な変遷様式と岩相発達との関連性を調べると、生物群の出現・消滅は明らかに岩相支配を受けており、その繁栄は同一岩相の発達程度に強く規制されている。四射サンゴ類を例にとると、1.サンゴ類は炭酸塩岩類から特徴的に産し、とくにペルム紀後期サンゴ類は、ペルム紀中期からの生き残り群で特徴づけられる。2.最上部ペルム系まで群体サンゴ類が産する地域には、石灰岩が水平・垂直的に広範囲に発達している。一方、小型単体サンゴ類が特徴的に産する地域では、石灰岩の発達が悪く、石灰質泥岩などが分布している。3.サンゴ類の消滅順序を、形態上からみれば、まず複雑型(塊状群体サンゴなど)のサンゴが消滅し、単純型(枝状群体・単体サンゴなど)は最上部ペルム系まで、所によっては大量に、生存したという変化が認められる。しかし、いずれの地域でも、トリアス紀まで四射サンゴ類が生存していた証拠はなく、絶滅現象はペルム/トリアス系境界で、比較的急激に生じている。 底生生物群の消滅後、アンモナイトや放散虫で代表される浮遊・遊泳生物群が消滅するが、同一タクサ内、あるいは生活様式の異なるタクサ間で認められる消滅順序の序列は、海洋生息環境の悪化による差別的な選択により生じたことが示唆される。このことは、生物群の消滅様式が生息環境の持続性や変化の指標になりうることを示している。揚子地塊のような比較的浅海域における底性・浮遊生物群と同様な変遷が、西南日本に分布する酸塩岩生物群集や遠洋性珪質岩中の放散虫群集でも認められる。ペルム紀末の生物絶滅現象は、同じ熱帯域内の異なる生息環境においても同様に生じている。
|