研究概要 |
本研究において、光化学反応初期において生成するラジカル対における電子スピン相関を強力なマイクロ波を用いることによりナノ秒領域で制御し、それによって光化学反応を制御することを目的とした。そのため本年度において強力マイクロ波パルス照射回路を完成させ、それを用いたスピン相関制御の可能性を検討した。光化学反応初期に生成するラジカル対は初期において、その前駆体のスピン状態と同じスピン多重度を持つ、その後超微細相互作用やスピン軌道相互作用により一重項状態と三重項状態との混合過程が起こるが、その過程がスピン分極の生成やその後の反応性を決定ずけている。2,6-ジクロロベンゾキノンの光誘起水素引き抜き反応において、核分極検出ESRスペクトルを測定したところ、弱いマイクロ波(200mW)を用いた場合には、E/A型のSNP信号が観測された。この事は弱いマイクロ波がスピン混合を促進して再結合生成物を増加させており、その促進が核スピン状態に対して選択的であることを示す。一方、強いマイクロ波(1KW)を用いた場合には信号は完全に反転しA/E型の信号が得られた。この事は強いマイクロ波によるスピン状態のロッキンク゚現象が見られたことを示し、ラジカル対の生成の後項間交差が押さえられた為、再結合生成物がある核スピン状態について選択的に減少していることを示している。さらにレーザパルス照射とマイクロパルスとの遅延時間を可変することによりSNP信号に減衰が観測された。これによりラジカル対の存在時間について明らかにすることが出来、さらにマイクロ波パルス遅延時間制御が生成物およびその核分極を制御可能であることが明らかとなった。今後さらにマイクロ波パルス照射のスイッチング時間の改善および、ラジカル対および、再結合過程に対する高速検出法の開発により、マイクロ波による反応制御についてより詳細の検討が必要である。
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