本年度は、以下の2点について研究を行った。 1.タンパク質と溶媒分子の相互作用とアミドIバンドのF行列対角項との相関 筆者は、タンパク質アミドIバンドの新しい理論的解析法(シミュレーション法)を開発してきており、本研究はその延長上に位置づけられる。これまでの研究により、従来の経験則では未解決であった問題の多くを解決することができたが、主鎖のペプチド基どうしの強い水素結合が形成されない柔軟なループ領域など、溶媒との接触が多いペプチド基については、分子間相互作用による構造変化等の点について、未だ考慮が不十分であった。そこで本研究では、タンパク質分子表面に対する各原子の寄与を算出するアルゴリズムを基に、タンパク質と溶媒分子の相互作用とアミドIバンドのF行列対角項との相関について検討した。その結果、溶媒分子との接触の程度が大きいペプチド基については、F行列対角項を若干小さめにとるのがよいことを見いだした。 2.ジメチルスルホキシドの液体構造 ジメチルスルホキシドは、タンパク質を溶解し皮膚を透過させるなど、実用的な面で重要なタンパク質の溶媒の1つである。このような観点から、ジメチルスルホキシド中におけるタンパク質の構造(特に水溶液中における構造との相違)は、広く注目を集めている。本研究では、これを計算化学的に解明するための第1段階として、ジメチルスルホキシド純液体の構造を、モンテカルロ法を用いて計算し、液体構造に敏感な実験法の1つであるラマンnoncoincidence効果の実験データとの比較検討を行った。今後、ここで得られた知見を基に、タンパク質とジメチルスルホキシドの2成分系の計算を行う予定である。
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