本年度は、過渡回折格子分光法の応用と有効性を示す目的で、既に手がけてきた有機薄膜中の光誘起電子移動過程について研究を行った。光伝導性を示す高分子としてよく知られているポリ(N-ビニルカルバゾール)にテトラシアノベンゼンルバゾール環の励起状態からTCNBへの電荷分離過程を直接観測した。回折光強度の時間変更だけでなく、その波長依存性も同時に観測することによって、カルバゾールの励起一重項状態の減衰とそれに対応したTCNBアニオンの生成過程を回折光スペクトル(回折効率の波長依存性)の時間変化として観測した。その結果、薄膜での光導起電荷分離過程が約10ピコ秒で起きることが分かった。これは、膜厚がサブマイクロメートルのポリ(N-ビニルカルバゾール)薄膜中の電荷分離は200ps程度の速い減衰と数nsまで減衰しない成分からなることが分かった。従来、薄膜などの光化学ダイナミクスの時間分解計測には高感度な蛍光法が用いられてきたが、蛍光法では発光種の情報のみが分かるだけであった。本研究の結果は、非発光種の動的挙動も含めた高時間分解分解能かつ高感度の時間分解計測法として、白色光パルスをプローブ光に用いた過渡回折格子分光法が極めて有効であることを示したものである。 これまでの測定システムでは透過回折光の検出を行うものであった。今後は、上記の成果をふまえた上で、反射回折光の検出可能なシステムへと発展させ、半導体/溶液界面や半導体/有機薄膜界面への時間分解計測が可能な過渡回折格子分光システムの開発を行う。
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