走査トンネル顕微鏡(STM)による光合成モデル系における電荷移動の直接観察を目指して研究を行った。最も簡単なモデル系として、光誘起電荷移動の期待できる銅フタロシアニン分子とSrTiO_3表面の組合わせを選び研究を行った。まずSrTiO_3単結晶表面について調べた。この成果として、超高真空中で加熱還元することにより、原子的平坦さをもつSrTiO_3単結晶の清浄表面を得ることに初めて成功した。この表面を走査トンネルスペクトロスコピーを用いて詳細に調べた結果、規則的酸素欠陥配列による表面再構成が起こっていることを明らかにした。また、この還元SrTiO_3表面と酸素分子の相互作用についても詳細に検討した。その結果、酸素分子は高真空中では還元SrTiO_3表面と吸着・脱離平衡状態にあり、酸素分子は酸素欠陥サイトに約1eVの吸着エネルギーで分子状吸着することを見い出した。またさらに酸素の被覆率を増やすと、酸素欠陥を完全に酸化することがわかった。この表面を基板として、超高真空中で銅フタロシアニンの真空蒸着を行いSTM観察を行った。その結果、孤立分子像を得ることに成功した。観察されたSTM像は銅フタロシアニンのパイ電子系の形をよく反映していた。この系に半導体レーザー光を照射しながら走査トンネルスペクトロスコピー観察を行ったところ、フタロシアニンからSrTiO_3基板表面への電荷移動に関連すると思われるスペクトルを得ることができた。今後研究を継続し、表面上での分子間の電荷移動について研究する予定である。
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