研究概要 |
生体系のタンパク質と複合体を形成している補欠分子(クロロフィルa(Chl)など)の空間配置や配向は、タンパク質の高次構造により規定されていることが知られているが、電子移動反応やエネルギー移動反応のような光合成初期過程に及ぼすこの複合体の影響についてはまだ明らかにされていない。そこで、タンパク質のモデル分子としてポリ(L-グルタミン酸、L-チロシン)、ポリ(L-リジン、L-トリプトファン)などのコポリペプチドを用い、界面活性剤水溶液系でChlと相互作用させてChl-コポリペプチド複合体が形成させ、その光物理学的及び光化学的性質を明らかにした。これまでに得られた結果を以下にまとめる。(1)円偏光(CD)スペクトル:ポリ(L-リジン,L-チロシン)水溶液に陰イオン界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を添加すると、協同結合が起こり不規則構造からbeta-シート構造へコンフォメーションが変化し、その複合体中にChlは可溶化していることがわかった。他のコポリペプチド系についても類似の結果が得られた。(2)吸収・蛍光スペクトル:Chlが複合体中に取り込まれるとChlの蛍光強度が増大し、芳香族アミノ酸であるL-チロシンからChlへのエネルギー移動が起こっていることを明らかにした。そのエネルギー移動効率はSDS濃度に依存しており、協同性を表すパラメータ、結合度が1に近いSDS濃度(0.4mM)でやく50%であった。(3)過渡吸収スペクトル測定:Chl-コポリペプチド系の電子移動反応を過渡吸収分光法により調べた結果、500-530nm領域に850mus程度の寿命を有するChlアニオンラジカルが存在し、470nm付近にチロシンカチオンラジカルが存在することがわかった。つまりその複合体中でチロシンからChlへの電子移動が起こっていることが明らかになった。本研究の結果は生体系の有効なモデル系として機能していることを示していることがわかり、今後の系統的研究が期待される。
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