本研究の目的はラジカル対を生成する光化学反応をab-initio分子軌道法により理論的に検討することであった。本年度は、分子内にラジカルが二個あるビラジカルを生成する光化学反応を取り扱った。 NO_2に可視光を照射すると電子励起状態に励起される。励起状態のNO_2の酸素原子は容易にオレフィンの二重結合とC-O結合を形成し、NOを解離する。NO_2を利用したオレフィンの光酸化反応は、酸化が温和に行われるので、主としてエボキシドが立体配座に影響を及ぼすことなく立体選択的に最終生成物として得られる。そこで、この光酸化反応の機構を分子軌道法により理論的に取り扱った。 エチレンと基底状態のNO_2は、9kcal/molの活性化エネルギーで10kcal/mol安定なニトリトラジカルになる。NO_2の励起状態は基底状態より37kcal/mol高く、容易にこの反応が進行すると考えられる。ニトリトラジカルは7kcal/molの活性化エネルギーでオキシランビラジカルになる。オキシランビラジカルは元の反応物よりエネルギー的に高いと考えられているようだが、計算結果は22kcal/molほど低くなっている。オキシランビラジカルは容易に閉環しエボキシドになる。これらの結果から実験時に反応が温和におこるということが解る。以上は4-31G基底によりHF法で求めた。光化学反応の理論計算には高い精度の計算が要求されるので、次に、構造をMCSCF法で最適化している。計算途中の結果ではあるが、(^1sigmasigma)状態として表されるオキシランビラジカルはこれまでの報告でもROHFやUHFで構造が最適化されているが、MCSCF法ではビラジカル状態の構造を最適化するのが困難であり、今後の課題である。
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