非共鳴2光子イオン化によるしきい光電子を観測する目的でこの研究に着手したが、まず分子線を発生させるための差動排気が可能な真空チャンバーを制作し、分子線を発生させた。さらにしきい光電子を測定する前準備としてアニリンの非共鳴2光子イオン化スペクトルを測定した。この測定においてアニリンの電子基底状態からイオン化状態への0-0バンドに相当するイオンの立ち上がりが観測され、その立ち上がりの電圧依存性の結果からアニリンが非共鳴でイオン化していることが確かめられた。さらに0-0バンドから520cm^<-1>高エネルギー側にもう一つの立ち上がりが観測された。このバンドはアニリンのS_1状態を中間状態として、2台のレーザーを使って得られたしきい光電子分光法の結果より、アニリンイオンのv_<6a>振動準位への遷移と帰属された。しかしこの立ち上がりから予想されるしきい光電子スペクトルの振動構造は、2台のレーザーを用いて行った実験とはかなり異なっている。これは2台のレーザーを使って測定するしきい光電分光の場合、スペクトルに出現する振動構造はS_1状態とイオン状態の間の分子構造の違いを反映している。しかし基底状態から直接遷移させる今回の非共鳴2光子イオン化では中性の基底状態とイオンの基底状態の分子構造の違いを反映したスペクトルが現れるためと結論される。しきい光電子を観測したスペクトルでは現在のところ、0-0バンドが弱く観測されるのみでまだ詳細な振動構造を観測できてはいないが、今後装置を改良して、測定感度を上げることができれば、イオンの基底状態を分子構造のよく分かっている中性の基底状態から直接観測できるため、イオンの分子構造についてより直接的な情報が得られると期待される。
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