鏡像異性体(光学活性)を持った鎖状(たとえばらせん状)の分子骨格を用い、その両端に電子移動反応分子(電子供与分子および電子受容分子)を接続すると、電子の流れは鎖状部分を伝達する電流として解釈されるので、磁場との相互作用が期待される。本研究では、こういった系の電子移動反応および逆電子移動反応の反応速度の磁場効果を解析し、長距離電子移動反応において重要な役割を果たしている超共役効果の詳細な情報を得ることを目的とした。鎖状分子骨格としては、DNAあるいは蛋白質、ポリペプチドなどの生体関連分子がもっとも適当であり、これは生体反応内における電子移動反応の解明につながる。今年度は、適当な反応系を探査するためには、いくつかの反応分子を試験的に採用し、その光化学的性質を調査することができた。具体的には、DNAに色素分子とメチルビオロゲンをインターカレートないし静電結合させたもので、蛍光量子収率測定ないし蛍光寿命測定で実際に電子移動反応が起こっていること、またその反応速度定数を求めることができた。また光学活性は、色素を用いて、光学活性分子同士の相互作用も検討した。現在のところ有する装置で測定が可能な時間領域や濃度領域では、期待される超共役効果による電子移動反応は主たる過程でないことがわかり、したがって磁場による反応に対する効果は見いだされなかった。現在さらにポリプロリン鎖を持つ分子などの合成を試みており、今後さらにピコ秒あるいはフェムト秒時間領域での測定が可能になるので、さらに測定対象を広げてゆくことが可能であると思われる。
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