最近、フリーラジカルが種々の有機合成に利用されているが、複素環化合物の合成に適用された例はあまり多くない。ヒドラジルラジカルの物理化学的性質については、これまで詳細に研究されてきたが、複素環化合物の合成に利用された例はほとんど知られていない。アルケニルヒドラジンに種々のラジカル開始剤を作用させることにより、ヒドラジルラジカルのアルケンへの分子内環化反応を研究した。 1-アリル-2-フェニルヒドラジンにDPPH、AIBN等種々のラジカル開始剤を作用させたところ分子内環化し、1-フェニルピラゾールが得られた。メチレン鎖を一つ伸ばした化合物では環化生成物は全く得られなかったことにより、この反応では、中間体のラジカルの安定性が重要であると考えられた。そこでラジカル安定化のために、フェニル基を導入した1-(4-フェニル-3-ブテニル)-2-フェリルヒドラジンに種々のラジカル開始剤を作用させたところ、1-フェニルピラゾリジン、1-フェニルピラゾリジンの二量体が得られた。さらに、フェニル基のp位に種々の置換基を導入し、環化反応を行い、生成物の収率を高速液体クロマトグラフィーを用いて測定したところ、p-C1のようなラジカルを安定化する置換基の場合には、二量体の収率が増加することがわかった。一方、1-(4-フェニル-3-ブテニル)-1-メチルヒドラジンの環化反応の場合には、1-メチルピラゾリンと1-メチルピラゾリンが得られたが、二量体は全く得られなかった。これらの化合物の生成比は反応温度により大きく変化し、低温ではピラゾリンが主生成物であったのに対し、温度が上昇するにつれてピラゾリジンの収率が増加した。 以上のことより、ラジカル開始剤がヒドラジンの水素を引き抜き、生成したラジカルがオレフィンを攻撃し、環化生成物を与えることを明らかにした。
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