研究概要 |
alpha,beta-エポキシアルデヒドに対する有機金属試薬の付加は一般にanti-エポキシアルコールを与える。今回、初めてジアルキル亜鉛によりsyn-付加体を得ることができた。まず、Sharpless不斉エポキシ化を経て得られる3-トリメチルシリル-2,3エポキシプロバナ-ル(1)(>98%ee)にジエチル亜鉛(1.2〜2.0当量)を種々の溶媒中作用させたところ、トルエン中で満足のいく収率(70〜80%)と高いsyn選択性(93:7〜94:6)でエチル付加体を得ることができた。興味深いことにジエチル亜鉛を0.5当量使用した場合、あるいはラセミ体の1を用いた場合syn選択性はそれぞれに83:17または90:10に低下した。このことは反応中間体が会合等の複雑な構造をとっていることを示唆する。エポキシアルデヒドとしてはTRANS置換体(1あるいは2,3-エポキシノナナ-ル)で上記と同様の結果が得られたが、光学活性なcis-2,3-エポキシオクタナ-ルではsyn/anti比は65:35程度まで低下した。さらに反応点近傍に置換基を有する2-ノニル-2,3-エポキシプロパナ-ルでは反応がほとんど進行しなかった。亜鉛試剤としてEt_2Znのほか、対応する有機ホウ素試薬とEt_2Znのトランスメタル化により得られるジデシル亜鉛あるいはエチル(E-1-オクテニル)亜鉛も適応でき、ラセミ体の1との反応でデシルあるいはE-1-オクテニル付加体が収率良くsyn/anti比91:9および80:20で得られた。すなわちジデシル亜鉛でEt_2Znよりも高い選択性が発現しており、前者の立体的嵩高さによるものと考えられる。ジアルキル亜鉛の付加はエポキシアルデヒドの2つの酸素官能基によるキレーション制御により初めて進行し、syn付加体を与えたと考えられる。そこでこの概念を分子間反応に適用し、1とアニスアルデヒドの混合物にEt_2Znを反応させ、前者のみに“キレーション標的"エチル基付加を行なうことができた。
|