ジチオレン配位子L(L=S_2C_2(CO_2Me)_2)が2つの鉄を非対称に架橋し、2つのペンタメチルシクロペンタジエニル配位子(Cp')が互いにトランス位にある鉄二核錯体trans-Cp'_2Fe_2(CO)L(1)の反応性、特に1がnon-innocentな配位子といわれるLを持つことによる特異な反応性を明らかにするために、1の光反応とその生成物の熱および光反応、一酸化炭素との反応を研究した。 1.1のベンゼン-d_6溶液を封管中光照射すると、1の幾何異性体cis-Cp'_2Fe_2(CO)L(2)が主生成物として得られた。2がシス体であることは2のX線結晶構造解析により決定した。また2のトルエン-d_8溶液を封管中の110℃で加熱すると、主生成物として1が得られた。さらに両者の反応でカルボニル配位子が脱落したジチオレン架橋鉄二核錯体Cp'_2Fe_2L(3)も生成していることが各種分光学的測定により明らかとなり、3は1および2の光および熱異性化反応の中間体であることを強く示唆している。 2.減圧下で1のベンゼン-d_6溶液を光照射する方法により、3のみを単離することに成功した。また同様の条件での2の光照射でも3を得ることができた。このことは1および2の光照射でカルボニル配位子が脱離したことを意味している。また脱離したカルボニル配位子が強制的に反応系外に除去されたために、3のみが生成したと考えられる。ここで反応系中に一酸化炭素が存在しない状態で、配位不飽和な3を単離できたことは、ジチオレン配位子が配位様式をかえることで3を安定化していることを示している。 3.3のベンゼン-d_6溶液に室温で1気圧の一酸化炭素を導入すると、まず2が生成し、さらに続いて1へ異性化することを見出した。室温でも容易に2から1への異性化が起こったことは、反応系中に過剰に存在する一酸化炭素により異性化が加速されることを意味している。
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