分子の動的構造変化をとらえることは様々な現象のメカニズムを分子レベルで解明することを意味する。特に金属錯体では比較的弱い金属と配位子間結合の変化やコンフメーションの変化による構造変化がある。これらの動的過程はミクロな分子の挙動が溶媒からの揺動とどうかかわっているかを反映していると考えられる。ビスフェナンスロリン銅(I)錯体誘導体は光励起により銅(I)から配位子への電荷移動状態から発光する。しかし、この発光は溶液中、2つの配位子どうしの立体障害の小さい錯体では消光される。本研究では非発光性ビスフェナンスロリン銅(I)錯体の時間分解吸収スペクトルの測定により溶存分子の励起状態での構造変化の動的過程を追跡することを目的とした。 本研究では非発光性過渡種をとらえるため、まずNd:YAGレーザー第二高調波を励起光源とし、モニター光源として定常光ハロゲンランプを用いた過渡吸収スペクトル測定システムを組み立てた。モニター光源用のハロゲンランプハウスを製作した。このモニター光源の光はレンズ系を用いサンプルセルまで導き、途中高速チョッパーで切り出し擬矩形パルス波としパルス点灯の場合より高安定なものを得た。チョッパーの回転をピンフォトダイオードでモニターしその信号に同期させてポンプ光であるレーザーを発振させるよう制御系を作った。サンプルセルからの透過光はレンズで集光し分光器に導き光電子増倍管で検出した。このシステムにより、高密度の光に不安定な光に対して低光量で積算して測定できる。標題の錯体では溶媒の誘電率が高くなると発光の収量が減少する傾向があり、溶媒をかえて現在種々の条件での測定結果の解析をすすめている。
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