研究概要 |
当年度の研究によって、まず高原子価錯体の安定化が期待される多座陰イオン性配位子H_3LAを新たに合成することができた。4座配位子H_3LAは当初計画していた7座配位子合成の検討過程で得られたものであるが、オキサゾリン環と脂肪族アルコール側鎖を持つ非対称な構造の配位子である。本配位子は低原子価に有利なオキサゾリン環の窒素原子配位サイトと、高原子価に有利なアルコール酸素、アミド窒素の配位サイトが存在するため、多核錯体を形成すれば高原子価イオンと低原子価イオンを同時に有することが期待される非常に興味深い配位子である。しかしながら、現在までの研究で得られた錯体はX線結晶構造解析から、オキサゾリン環サイトで配位した単核の金属錯体であることがわかった。 単核種しか生成しない原因は、両配位サイトの錯形成時における最適pH値の差が大きい為と推測されるので、今後もひきつづき反応条件を検討し多核錯体の合成を試みる。次に既に合成されている5座陰イオン性配位子H_5L^n(n=1;C1,n=2;H,n=3;CH_3)に関する研究では、この配位子より生成する4核銅(II)錯体と過酸化水素を反応させ新たに6核銅(II)錯体を単離することができた。この6核錯体はオキソイオンを2個含むと考えられ、電気化学測定によると4核錯体よりも更に銅の酸化電位が低くなっており、高原子価状態が安定化されていることが示された。仮定した構造に基づいてEHMO計算でHOMOレベルを計算したところ、電気化学の結果と同様に6核錯体のほうがHOMOレベルが低いことも分かった。 以上のようにこの配位子は高原子価錯体の生成のみならず、多核錯体の生成に関しても優れた性質を有していることが示された。今後これらのデータをサポートするためにもX線結晶構造解析によって錯体の構造を確認する必要がある。
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