研究概要 |
硫黄架橋を含むキュバン型[Mo3CuS4(H2O)10]^<4+>(A)を、既報に従い、^<95>Moを用いて合成し、そのESRスペクトルを測定した。天然存在比のモリブデンを用いて合成したAのESRスペクトルは、g=2.00付近にのみ吸収をもち、S=1/2であることが明らかになった。中央の4本線は銅による超微細分裂であり、その両側に^<95,97>Moによるサテライトが観測された(図1-a)。このサテライト部分と中心部分の強度比は約1:20で、一つのモリブデン核による超微細相互作用によるものとして説明できる。gテンソル軸と、Aテンソル軸を共軸と仮定した計算機シュミレーション(図1-b)よりgx=1.928 gy,gz=1.942Ax(Cu),Ay(Cu)=42MHz,Az(Cu)=86MHzという値を得た。ここで、得られた値がge=2.0023より小さいことと、銅の超微細結合定数が通常のCu(ll)錯体と比べて小さいことなどから、Aの常磁性中心は銅上にないと考えられる。^<95>Moでエンリッチした合成したAのスペクトル(図1-c)は、その両端のサテライト部分の形が図1-aのスペクトルとよく一致している。このことと前述の強度比とをあわせると、不対電子と相互作用するモリブデン核がただ一つであることが明らかになった。スペクトルのシュミレーションは現在のところ完全な一致を得るにいたってないが、相互作用するモリブデン核を一個とし、共鳴軸を仮定することで、Ax(Mo)=190MHz,Ay(Mo),Az(Mo)=80‐120MHzの値が得られた。これらの値より、不対電子の約7割が、一つのモリブデン上に局在しているという結果となった。この結果については、分子軌道計算などの方向からの検討も行なって行く予定である。
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