研究概要 |
リン脂質二分子膜の閉鎖型小胞体であるベシクルは種々の相転移を起こし,膜の状態を変化させることがよく知られている。この相転移には前転移及び主転移が存在し,さらに近年,加圧やアルコール,麻酔薬等の添加により二分子膜がinterdigitatedな相状態に変化を起こす新しい相転移が見いだされた。本研究においては二分子膜の圧力誘起の相挙動を明らかにする目的で高圧力下におけるベシクルの相転移現象を観察した。 高圧力下での相転移現象の観測は光学的な方法を用いて行った。あらかじめ調製された一定濃度のベシクル懸濁液の入った試料溶液を分光光度計内に据え付けられた窓付きの高圧容器内に置き,一定の圧力下において温度を変化させて溶液の透過率が急激に変化する温度を求め相転移温度を決定した。今回はまた一定の温度下において圧力を変化させて溶液の透過率を測定する装置を製作し、同様な方法で相転移圧力を決定した。まず炭化水素鎖長の異なるフォスファチジルコリンベシクルに対して実験を行い、それらの高圧力下での主転移に関する相挙動について熱力学的な考察を行った。次に一定量の局所麻酔薬テトラカイン塩酸塩を添加したジパルミトイルフォスファチジルコリン(DPPC)ベシクルの高圧力下での相挙動を調べ、麻酔薬存在下においては加圧によって誘起されるinterdigitatedな相の他に別の新しい相状態が誘起されることを確認した。現在この新しい麻酔薬誘起相の同定を行っており、さらには得られた高圧力下でのDPPCベシクルの相挙動と麻酔作用の圧拮抗機構の関係について調べているところである。
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