研究概要 |
触媒活性を利用して海水中のクロム(III)を高感度に定量するための化学発光系として,ルミノール-過酸化水素系を検討した。製作した化学発光計およびフローセルシステムを用い,フローシステム流路系,反応pH,試薬濃度等の最適化を行った結果,ルミノール-過酸化水素系に対し,テトラエチレントリアミン(TETA,増感試薬),EDTA(共存イオンのマスク剤)を含むホウ酸緩衝剤(pH調整)を用いることとした。その結果,人工海水添加直後のクロム(III)に対して検出限界0.1nMを達成した。 ところが、人工海水にクロム(III)を添加して放置すると,クロム(III)の触媒活性が徐々に低下し,長時間経過すると発光強度が添加直後の10%程度まで低下する現象が見られた。炭酸イオンを含まない人工海水では,触媒活性低下の程度が減少したため,触媒活性低下の主因を化学発光系に対して不活性なクロム(III)-炭酸錯体の生成によるものと推定した。これを活性な錯体に変換するために,pHを変えて加熱する,活性な錯体を形成する,TETAを加えて加熱する,過酸化水素等を添加して,クロム(III)の酸化状態を変えて置換活性な溶存種に変換するなどの種々の前処理を検討したが,いずれの方法によっても,いったん触媒活性が低下したクロム(III)の活性を回復させることはできなかった。 一方,クロム(VI)Iついては,塩酸酸性下で過酸化水素を作用させてクロム(VI)をクロム(III)に還元することによって,還元剤の干渉を受けることなくクロム(VI)を高感度に定量できた。 以上の結果,海水中のクロム(VI)をフロー系で迅速簡便に定量できる装置を試作した。この結果,観測船上などの観測現場でクロム(VI)濃度の測定が可能となった。また,植物プランクトン培養に伴うクロム溶存形変化の追跡実験においても,クロム(VI)濃度を短時間間隔でモニタすることが可能となった。
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