研究概要 |
宮城県蒲生潟の小型甲殻類の種組成は、生息場所を形成する基質の物理的構造に反応して変化することが明らかにされている(松政・菊地,1993;Matsumasa,in press)。一方、こうした物理的構造は、小型甲殻類の捕食者にも生息場所を提供しており、小型甲殻類群衆の動態決定様式を明らかにするためには、小型甲殻類-捕食者-生息場構造の三者間の関係を知る必要がある。本年度には、1)小型甲殻類・捕食者の各種が、それぞれ異なった生活様式・捕食様式をもち、避難場所となる基質が存在しない場合でも捕食-被食関係は両者の組み合わせにより異なると予想されること、2)従来の実験では、小型甲殻類の優占種のみを対象としている場合が多く、捕食を効率よく逃れうる種類が優占種となっている可能性が見落とされていると考えられることの二点を考慮し、野外・室内実験を行った。その結果、小型甲殻類の被食率は小型甲殻類-捕食者の種の組み合わせにより大きく変化することが明かとなった。さらに、両者のサイズ、行動様式や、被食者の性と雌雄間の行動上の相違も小型甲殻類の被食率に影響することが認められた(Matsumasa&Shiraishi,in press)。また、避難場所となる基質は、全体として小型甲殻類の被食率を低下させたが、基質の種類、小型甲殻類、捕食者の組み合わせによって、そのパターンは変化した。一方、捕食者を囲いこんだユニットへの小型甲殻類の移入と、捕食者を含まないユニットへのものとを野外において比較した結果、捕食を効率よく逃れうる小型甲殻類が優占種となっていることが示唆された。さらに、対象としている汽水域の生物の特性を明かにする目的で、甲殻類の生理・形態的特性と分布との関係の検討も行い、その成果の一部も公表した(Matsumasa&Kikuchi,in pressなど)。
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