カエル類の繁殖様式と精子の形態や運動能力との関係を明らかにするために、日本産のカエル類20種の精子の外部形態および大きさと遊泳能力を調査した。繁殖期あるいは繁殖期直前に捕獲した雄の総排出腔にピペットを挿入するか、解剖して精巣を摘出して活性のある精子を採取した。それを位相差光学顕微鏡下でマイクロメータとともに撮影し、その写真から精子の頭部尾部の長さを測定した。また、精子を含む液体を原則としてその種が採取された繁殖場所の水で希釈し、位相差光学顕微鏡下でマイクロメータとともにビデオ撮影し、その映像から遊泳速度を測定した。その結果、精子の全長は、全種平均で73.7mum(SD=4.60)であったが、最小のニホンカジカの精子(平均47.8mum)と最大のシロアゴガエルの精子(平均182.3mum)とでは大きさに約4倍の差があり、種間変異が大きいことが明らかとなった。また、外部形態も種間で大きく異なっており、アオガエル科では、それが顕著であった。中でも泡巣を造る種の精子の形態が他と著しく異なっており、Rhacophorus属の精子は、螺旋状の形態をしており、Polypedates属のシロアゴガエルでは、極めて細い糸状をしていた。精子の遊泳速度は、大きな(長い)精子ほど速く、アオガエル科では相対速度も大きな精子ほど速かった。以上のように他の科と比較して、繁殖様式の多様なアオガエル科で精子の形態や運動能力に大きな種間差があることは精子の形質と繁殖様式との間に適応的な関係が存在することを示唆している。特に、泡巣を造るアオガエル類における特殊な形態の精子や遊泳能力の高い巨大な精子の存在は精子競争や泡という特異な産卵気質が精子の形質の進化に影響を及ぼしている可能性を示唆している。
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