イソヨコバサミClibanarius virescensの分布の世界的な最北端である房総半島と、黒潮流の中にある伊豆諸島の八丈島、三宅島に、調査地点を設け、採集を行った。採集した個体は、固定して実験室に持ち帰り以下のことを調べ2地点間で比較する:詳細な形態の記録と計測、特に鉗脚・歩脚、頭部・尾部とその付属肢の形態とそれらの計測値を用いたコンピューターによる多変量解析と統計処理、サイズ頻度分布による成長の季節変化とコホート分析、性比とそのサイズ・季節による変動、繁殖期の推定、1雌あたりの卵数と卵サイズ、利用貝殻の種類と頻度、詳細な潮間帯内での分布域を調べた。房総半島では年間で2177個体が採集され、性比は雄:雌=8:10、サイズは平均すると雄のほうがやや大きく、また利用貝として多いのはクボガイ、スガイ、イソニナ、イシダタミガイなどであた。潮間帯のほぼ中央に分布し繁殖期は4月から10月で非繁殖期には分布がひろがる。また八丈島、三宅島産の個体との比較をおこなった。その結果、伊豆-マリアナ島弧産のものは体色の色彩が緑で、房総半島産の紺色とは、一見して異なるが形態的には全く同じであった。房総半島産と八丈島産の個体で、攻撃行動などの個体間の行動を目視またビテオ撮影で観察したが、特に大きな違いはなかった。この色彩の2系統が存在することは、本種が複数の系統をもつことを意味するのかもしれないが、今後の詳細な検討が必要である。
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