シロウリガイ類3種5集団の各10〜20個体について、ミトコンドリアDNAのCO1、12SrRNA各領域をPCR法により増幅し制御酵素断片長多型(RFLP)分析を行ったところ、相模湾のシロウリガイ(C.soyoae)に2つのハプロタイプがみられたのを除き、集団内変異は検出されなかった。次に、相模湾のシロウリガイ2タイプおよび記載済みの全ての日本産シロウリガイ6種(カイコウ、ノチール、テンリュウ、ナギナタ、エンセイ、スルガシロウリガイ)と沖縄トラフ伊平屋海嶺産のシロウリガイ各1〜5個体について、CO1およびCO3領域の塩基配列(各300塩基対)を決定した。CO1領域では、2種で1ヶ所のアミノ酸置換が生じていたのを除き全ての塩基置換は同義的なものであったのに対し、CO3領域では多くのアミノ酸置換がみられた。これらのデータおよび既知のムラサキガイのデータを用いて、シロウリガイ類の系統関係を解析したところ、奥谷ら(1993)の形態による分類大系とほぼ一致した。しかしいくつかの点で相違があり、今後形態の再検討を含めた吟味が必要である。相模湾産のシロウリガイの2つのタイプ間では、5%程度の塩基が置換しておりCO3領域では2ヶ所のアミノ酸の置換がみられた。これは種内変異としてはかなり大きく2つのタイプが別種である可能性もある。生殖的隔離の有無はミトコンドリアDNAからは判定できないので、アイソザイム分析などの核遺伝子の解析によって明らかにする必要がある。一方、伊平屋海嶺で採集されたシロウリガイは、相模湾産シロウリガイの片方のタイプと極めて相同性の高い配列を持つことが明らかになった。このことは10〜200万年前と推定されている沖縄トラフの熱水活動開始後、シロウリガイ(C.soyoae)の伊平屋海嶺への移入が起こり、その後が両者の間に遺伝的交流がないことを示唆する。
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