これまでの研究で残されていたカミキリムシ郡のうちの、大群であるフトカミキリ亜科について雌生殖器の比較を始めた。これに先立ち、手持ちの材料(標本)の不足を補うために、福島県、四国地方、奄美大島での資料収集を行った。収集した標本は、雌生殖器以外の内部形態の検視もできるように、一部を液浸標本で保存した。これらは、将来にわたり活用していく予定である。 日本産フトカミキリ亜科の中から代表的な種を選び雌生殖器を比較した結果、全般的に雌生殖器が新形質を示し、成虫の外部形態のいちじるしい多様化にもかかわらず、産卵管の部分(腹部第8節と9節)の形態は同質的であった。このことは、フトカミキリ亜科の起源が比較的遅く、種分化が急速に起きたことを暗示している。 いっぽうで、受精嚢の形態は非常に多様であった。そこで、日本産フトカミキリ亜科21族のうちの15族25属44種について、受精嚢の形態を比較検討した。その結果、受精嚢の形態は個体変異が大きいものの種レベルの分類形質として重要であることがわかった。また、高次分類の系統解析における雌生殖器の重要性がこの亜科でも示唆された。 これらのことについて、フトカミキリ亜科を除くカミキリムシ群の雌生殖器についてまとめた論文の中の総合考察の部分で、代表的な種の図とともに簡単に記載した。 今後は、フトカミキリ亜科のうちある特定の族を定め、できる限り多くの種の雌生殖器を比較検討して、その族の系統解析を行っていきたい。そして、最終的にはフトカミキリ亜科全体の系統解析を試みたい。
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