本研究では、ヘテロ成長により作製した単結晶層状物質薄膜上へ、3次元的な構造を持つ化合物半導体を単結晶ヘテロ成長することを目的としている。本年度はまずSi基板上に層状化合物半導体GaSeの良質な単結晶薄膜を成長することを試みた。その結果、Si基板表面の処理として、混酸による酸化膜形成と希弗酸溶液による除去を行うことで表面を水素終端し、さらに弗化アンモニウム溶液で処理することにより表面を-SiH基のみで終端する、という手法を用いることで、その上にGaSe薄膜を基板温度400〜500℃で単結晶成長できることを確認した。これまでの水素終端基板上への成長では、基板温度を低温から高温へ成長途中で変えないと単結晶成長は実現しなかったが、今回の水素終端処理基板上では、最初から基板温度を高くしても単結晶成長が実現している。これは表面を-SiH基のみで終端することにより、水素原子の脱離温度を高くすることができたためと考えられる。 次に、この単結晶GaSe薄膜の表面形状を調べるために、原子間力顕微鏡(AFM)による観察を行った。その結果GaSe表面は径が数百nm程度の螺旋状構造で覆われており、薄膜が螺旋成長していることが判明した。また螺旋段差間の平坦部ではバルク単結晶と同じ原子像が観察されており、GaSeの単結晶成長を裏付けている。また、超高真空中でSeアニールしたGaSe薄膜のAFM像では、螺旋のエッジの部分が過剰なSeと反応している様子が観察されており、エッジの部分が活性であることを示している。 このGaSe薄膜上の化合物半導体を成長する場合には、不活性な平坦部と活性なエッジ部分の割合を制御することで、エピタキシャル成長に必要な界面結合部と、ひずみ緩和に必要な非結合部とを制御することができると考えられる。現在、化合物半導体のヘテロ成長の実験を行っており、単結晶成長の実現を目指している。
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