当初、科学的気相成長(CVD)法の成長過程の光をプローブにした観察手法について見地を深めようとして実験を計画していたが、YBa_2Cu_3O_X薄膜作製の条件を詳細に検討していたところ、その途上で従来にない低温(〜500℃)成長や高品質な薄膜成長が可能になることが明らかになった。その条件の詳細を調べることは今後の超伝導薄膜CVD技術の興隆のためにも非常に大切であり、すべてに優先すると考え、結局この1年をそれに費やすことに計画を変更した。以下では、その成果について簡単に述べる。 従来、超伝導膜を得るだけの結晶性をもった膜を成長させるには、650℃以上の温度を必要としており、それはPVD(物理的気相成長)法でも同じことであった。特にCVDでなければならない、CVDの特徴を十分に活かした成長条件の探求が望まれていた。 今回検討した条件は、今までにない低温で成長を行なうことにより、成長表面で原料分子が未分解で存在し、表面でのマイグレーションを低温域でも促進できるようにしたものである。この条件を用いることにより、 ・500℃低温成長 ・実効的に1格子のYBa2Cu3層から超伝導が起こる超薄膜の作製 ・表面の凹凸が、±1格子以下の超平坦膜の製作 の3つの実現を可能にした。これは、CVD法では世界でもはじめての成果であり、他の膜製作手法に広げても国内外で数箇所しか成功していないほどの技術水準の高いレベルの成果であり、CVD法にの技術レベルを飛躍的に高める結果となった。
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