高速イオンが表面で散乱するときに異常な散乱をしてエネルギースペクトルに振動構造を引き起こす原因を求めるため、数+keVの高速のイオンを結晶表面に微小角で斜入射させ散乱イオンのエネルギースペクトルの構造を、イオンの入射角依存、散乱角依存、荷電状態依存およびエネルギー依存等について詳しく調べる研究を行った。イオンの阻止能はイオンの荷電状態に依存するため、散乱イオンのエネルギースペクトルはイオンの荷電状態に分けて測定する必要がある。散乱イオンのうち中性粒子のエネルギーも測定するために、加速器から散乱槽に導入する入射イオンをプログラマブル電源によって静電的にスイッチし、散乱粒子検出器で検出されるまでの時間を測ることによって測定する。(飛行時間測定法)装置を完成させた。得られた飛行時間測定装置のエネルギー分解能は0.7%であり、散乱イオンのエネルギースペクトルの構造を調べるのに十分な性能であった。そして、イオンの阻止能の荷電状態依存を明確にするため、電荷の異なる散乱イオンを磁場によって振り分け、それぞれのイオンの検出をパーソナルコンピュータによってコントロールし、記憶モジュールにためることによってスペクトルの測定を行った。数十keVのH+を原子的に平滑なSnTe(100)表面に微小角で斜入射させ、散乱イオンのエネルギースペクトルの構造を調べた結果、表面ステップ密度の小さな表面の場合に、イオンの入射角に依存しないスペクトル構造を見いだし、水切り運動による現象と結論づけた。また、散乱イオンのエネルギー損失の電荷による差は本実験装置の測定分解能以下であった。この結果は、イオンの荷電変換が表面付近で頻繁に行われていることを示す。今後は、散乱イオンのエネルギースペクトル構造の荷電状態依存をさらに詳しく調べることによって、水切り運動の素過程と誘起電場のより詳しい情報を得る研究を行う。
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