半導体表面からのレーザー誘起原子放出について、1)表面損傷を誘起しない弱いフルエンス領域のパルスレーザー光照射により、表面欠陥を媒介とした原子放出が誘起されること、2)欠陥を媒介とする原子放出は、あるしきい値フルエンス以上で観測されること、そして、3)欠陥サイトの原子結合の強さと放出しきい値フルエンスとの間に強い相関があることが明らかとされている。本研究では、Si(100)及びGaAs(110)表面からの欠陥を媒介とした原子放出に対する臭素原子吸着効果を測定し、半導体表面における光化学エッチングの初期過程に関する重要な知見を得た。 まず、これらの半導体表面にパルスレーザー光を繰り返し照射した後、単原子層以下の臭素原子を吸着させ、再び、同一スポットに同一フルエンスのレーザーパルスを繰返し照射した。いずれの表面についても、放出収量は、吸着直後突発的に増大し、繰返し照射と共に、急激に減少した。臭素吸着により増大した放出収量は、吸着量に比例し、その絶対値は、吸着量の1/1000程度であった。臭素原子を吸着したSi(100)及びGaAs(110)表面に対する原子放出しきい値フルエンスは、それぞれ、清浄表面に対する放出しきい値の0.4及び0.65となることが明らかとなった。これらの結果は、吸着臭素原子と表面欠陥との強い相互作用により、欠陥サイトの原子結合が選択的に切断されることを示唆している。次に、10^<-3>Langmuir/sec.の低濃度臭素ガス雰囲気中において、Si(100)及びGaAs(110)表面に、パルスレーザー光を繰返し照射した。臭素ガス導入と同時に、放出収量は徐々に増大し、ある放出収量で飽和した。また、この放出収量の飽和値は、弱いレーザーフルエンスの領域では、フルエンスに対して指数関数的に増大し、あるフルエンス以上でほぼ一定となることが明らかとなった。報告者らは、吸着臭素原子により欠陥原子結合が選択的に切断されるというモデルに基いて、放出収量を半経験的に計算し、臭素雰囲気中における放出収量のフルエンス依存性を半定量的に説明した。また、この計算結果は、高濃度臭素ガス雰囲気中に対する結果もよく説明出来ることが明らかとなった。これらの結果は、光化学エッチングの初期過程において、ハロゲン原子と半導体表面欠陥との相互作用による結合切断が重要であることを強く示唆している。
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