本研究では、アトムプローブ(A-P)に電界放射電子分光器(FEES)を組み込んだ装置を用いて、Ir針先端に形成されるGe蒸着膜の構造、組成、および、表面電子状態を原始的スケールで分析し、Ge膜内へIr原子が混入すること、さらに、膜内の欠陥密度やIr原子の濃度によりGe膜の表面電子状態が変化することを明らかにした。また、n型Siの針状試料を作製し、清浄な表面の電子状態を調べた。 Ir針上へのGe蒸着は、基板温度を50K、室温、420Kの3通りとし、フィラメントを抵抗加熱して行った。その際、フィラメント温度を1100-1200Kと、800-900Kの2通りに設定し、Ge膜内が30-40MLとなるように蒸着時間をそれぞれ3-5分と20-30分とした。そして蒸着後、表面原子を徐々に電界脱離しながらA-P/FEESによる分析を行った。Ge膜はストランスキー=クラスタノフ型の成長様式を示し、数から十数MLの電界脱離によりGe膜表面のクラスターは消滅した。蒸着時の基板温度やフィラメント温度が高い場合には、Ge膜内や表面よりIr原子が検出された。この結果は、高温での蒸着によりIr原子がGe膜内に移り、膜を通り抜けて表面方向に拡散すること示している。また、各原子層から検出される原子数をA-P分析により求め、蒸着膜内の欠陥密度の分布を求めた。欠陥密度は基板温度が低い場合に高くなったが、蒸着後420Kでの加熱処理により著しく減少し、結晶性の高いGe膜が得られた。Ge膜表面の電子状態は、10ML以下の膜厚で、膜内の欠陥密度やIr原子の濃度により大きく変化した。すなわち、結晶化したGe膜の場合、4MLの膜厚でもエネルギーギャップを持った半導体的な電子状態となるが、膜内に欠陥やIr原子が含まれると、4MLから10MLまでの厚い層でも金属的な表面電子状態を示した。 本研究では、さらに、n型Siの〈111〉軸近傍より金属的なスペクトルが得られたが、この結果は現在計画されているのSi上のGe膜の電子状態の解明に際して求められる基礎となるデータを提供するものである。
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