共有性からイオン性結合に至る一連の物質群について、エピタキシアル成長による薄膜作製、界面形成に対する要求は、ますます大きくなっている。イオン結晶については、従来、NaCl型構造のアルカリハライドを中心に調べられてきたが、ヘテロ界面での最初期の核発生については不明な点が多い。界面で異なる結晶構造、対称性を有する系を用いることにより、核生成がレッヂなどの表面欠陥に基づくのか、テラス上で生じるのかを明らかにすることができると考えた。 本研究では、超高真空下での分子線エピタキシ-法により、NaCl型構造のMgO(001)基板上に閃亜鉛鉱型構造のCuCl、CuBrを成長させることを試みた。薄膜の構造は、反射高速電子線回折(RHEED)のその場観察、およびX線回折、原子間力顕微鏡を用いて調べた。そして、良好な2次元成長が生じ、CuCl[10]//MgO[110]、CuBr[110]//MgO[010]のそれぞれ異なる界面原子配置を与えることを見いだした。CuClとCuBrの5%の格子定数の相違が、初期核と基板表面との相対的原子配置を変化させた結果であり、特に、三量体分子である(CuCl)_3、(CuBr)_3が核発生過程で基板表面との相互作用において重要な役割を果たしていると考察された。これは、特定の表面欠陥上ではなく、平坦なテラス上での核発生を強く示唆した。また、界面での対称性からCuClとCuBrの各系は、結晶方位の異なる4つのドメインから成ることを明らかにした。
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