原子法レーザー同位体分離において、レーザー光は標的同位体の吸収線に共鳴し、他の同位体とは同位体シフトだけ離れた近共鳴状態にある。このような蒸気のなかでレーザー光が伝播すると、時間的にレーザーパルスの変形やスペクトルの変調が引き起こされ、さらに、レーザービームが空間的に不均一の場合、自己収束や自己発散等の空間効果も引き起こされる。一方、レーザー同位体分離におけるレーザービーム伝播の空間効果についての報告はほとんどない。本研究では、レーザービーム伝播の2次元シミュレーションコードを開発し、理論計算と実験の両面からレーザービームの伝播特性を研究し、以下のような研究成果が得られた。 1.実際の同位体分離を想定した2次元3準位系Bloch-Maxwell伝播コードを開発し、共鳴及び近共鳴媒質中におけるレーザービームの伝播特性を調べた。 (a)共鳴媒質中においては、コヒーレントな相互作用により、レーザービームの外側の強度の弱い部分が中心の強度の強い部分に比べ、伝播速度が遅い。多段階電離システムにおいては、レーザービームの利用効率を高めるためにGaussianより矩形に近いsuper-Gaussianビームを用いたほうがよいことがわかった。 (b)近共鳴媒質中においては、非線形相互作用により、原子蒸気自体がレンズのように振舞い、自己収束、ひいてはレーザー光が多数の細かいビームに分割されてしまうビームブレークアップが引き起こされることがわかった。自己収束、ブレークアップの引き起こす条件を定性的に評価した。さらに、自己収束と回折をうまく調和させ、レーザービームを長距離にわたって均一に伝播する条件も明らかにした。 2.Arイオンレーザー励起色素レーザーパルスをSm原子蒸気に入射させ、原子蒸気中におけるレーザービームの空間及び時間的な振舞いをストリークカメラを用いて実験的に初めて観測した。また、実験結果はシミュレーション結果ともよい一致を得た。
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