研究概要 |
レーザーマニプレーションの"準安定状態原子-表面"相互作用研究への応用に向けての基礎実験として、本年度は準安定状態原子間相互作用の測定を通してその有効性を実証した。レーザーマニピュレーションによって、我々は原子の運動状態と内部状態(電子状態)の制御を行なうことができる。運動エネルギーを100muK程度まで冷却した状態では、原子の運動は近接原子間に生じる運動エネルギー程度の弱い長距離相互作用ポテンシャルに支配されるようになる。近接原子対に原子の双極子遷移を誘起する近共鳴光を照射するとき、原子間には共鳴双極子相互作用、V(r)=±ahgamma(lambda/r)^3が誘起される。ここでgammaは原子の双極子遷移の自然幅、lambdaは遷移波長、aは1程度の定数である。我々は、照射するレーザー光の原子共鳴周波数からの離調DELTAomega=V(r)/hによって、原子間に誘起する相互作用を制御可能なことに着目した。つまり、DELTAomega>0なら原子間には斥力ポテンシャル、DELTAomega<0なら引力ポテンシャルが誘起できることになる。この結果として、準安定原子の衝突においてはペニング衝突の減少、増大を観測することが可能になる。 準安定状態クリプトン原子のトラップ(原子温度100muK)に対して、原子間相互作用を制御するレーザーを照射し、ペニング衝突レートの測定を行なった。原子の飽和光強度の2倍の強度をもつ相互作用を制御するレーザーによって、+10gamma,-20gammaの共鳴周波数からの離調においてそれぞれ-20%,+250%のペニング衝突レートの抑制と増強を観測した。この結果は、原子間相互作用ポテンシャルの励起レートとポテンシャル曲線からのエネルギー獲得を考慮したシミュレーションの結果とよい一致を示している。このような、レーザーによる運動状態、内部状態の同時制御の研究手法は原子-表面間相互作用にも同様に適用可能と考えられる。
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