本研究では、薄膜コーティング材の引き剥し試験により得られるダ-タから界面の接合強度を評価する方法について検討した。なお、薄膜としてコンクリートの上に塗布された塗装膜を用いた。また薄膜単体では破断するためFRP樹脂を補強膜として薄膜の上に施し、引き剥し試験を行い破断荷重・荷重点変位を記録した。接着強度の評価には破壊力学に基ずく限界エネルギー開放率を用いた。限界エネルギー開放率は有限要素法による弾性解析によって求めた。有限要素解析により補強膜・薄膜の材料定数、寸法を種々変化させ解析を行い、パラメータ整理を行った結果、補強膜・薄膜を一体の膜と考えることによりエネルギー開放率は一体の膜のヤング率・膜厚から求められることがわかり、限界エネルギー開放率を求める算定式を導くことができた。また、薄膜が破れずに剥離する方法を検討するため薄膜と母材の界面でのエネルギー開放率の関係を理論的に検討した。その結果、接合界面で限界エネルギー開放率で剥離していくと考えた場合、補強膜の厚さ・ヤング率の大きい材料を用いることにより薄膜の応力は減少し、薄膜を破断させることなく界面で剥離できることがわかった。この確認のため、補強膜を厚くした場合と薄くした場合についての引き剥し試験を行った。その結果、補強膜を薄くした場合、薄膜が破断したが、厚くした場合、薄膜と母材の界面で剥離できることを確認できた。また別の補強膜厚さで実験し限界エネルギー開放率を求めると補強膜厚さに影響なく、剥離中限界エネルギー開放率の値は一定値を示した。つまり、限界エネルギー開放率は剥離長さや補強膜の厚さ・種類などに影響されず、接合強度を合理的に評価できる強度基準であることがわかった。よって、補強膜を接着して薄膜の引き剥がし試験を行い限界エネルギー開放率を求める本方法は、薄膜の接合強度評価法としてたいへん有効な方法であることが示された。
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