研究概要 |
本研究では,手指の運動と接触覚を模倣した新しい塑性加工法を提案し,この方法による高精度化・知能化したメタルフロー制御技術の可能性を探った.大変形塑性加工中に薄板の形状と肉厚が大きく変化するため,力覚情報からは,メタルフロー挙動を探ることは難しい.インクリメンタルに成形している部分の肉厚とその空間座標をフィードバックできれば,成形輪郭形状と肉厚分布の推定,すなわち,メタルフロー挙動の推定が可能になる.このような観点から接触覚を用いることにした.得られた結果は以下の通りである. 1.接触覚を有する塑性加工機の試作:手指の模倣である棒状工具に通電方式の接触覚を搭載(予備実験結果から,ブランクホルダーを全て硬質塩化ビニルから製造する方式を採用し,接触覚情報の安定性を確保した)したCNC塑性加工機を設計・試作した. 2.メタルフロー制御手法のプログラム化:アルミニウム薄板を様々な形状の皿状に成形し,棒状工具の運動プロセスとメタルフロー挙動の関係を蓄積した.そして,すでに集積されているろくろ作業観察結果との比較から,本手法におけるメタルフロー挙動がろくろ作業と多くの類似点を有していることを明らかにした.これらの結果をもとに,メタルフロー挙動を定性的ではあるが予想可能な工具運動経路設計プログラムを開発した.また,接触覚情報をフィールドバックすることにより,輪郭形状の高精度化のみならず,成形中の厚さの変化からメタルフロー挙動を予想できるプログラムを開発した. 3.本方法の有効性の実験的検討:様々な形状の成形を行うとともに,成形品の肉厚分布等の実測により,本手法の有効性を実験的に検討した.しわ・座屈・くびれについては,本手法の適用により抑止可能なことが明らかになった.成形輪郭形状および肉厚分布の制御については,定量的な観点からは幾つかの課題が残るものの,成形形状によっては,多スローイングプロセスを経ることにより輪郭形状と肉厚分布を目的の分布に近付けることができ,メタルフローを制御できることが明らかになった.
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