申請者は、まず圧子と皮膜表面間に存在する摩擦を考慮した表面被覆材のビッカース硬度解折プログラムを開発した。さらに、7:3黄銅(Hv=60)およびマルエージング鋼(Hv=700)表面上にニッケルを種々の厚さに電析させた試験片を用い、表面被膜材のビッカース硬さに及ぼす摩擦の影響について実験・解析の両面から検討を行なった。その結果、皮膜と下地の組み合わせおよび皮膜厚さの相違によって、Hvに及ぼす摩擦の影響の程度は大きく異なることが明らかになった。すなわち、下地の硬さが皮膜より小さい7:3黄銅の場合には、いずれの皮膜厚さにおいても摩擦の影響は実用上無視しうるほど小さい。一方、下地の硬さが皮膜より硬いマルエージング鋼の場合は、硬さに下地の影響が現われない程度に皮膜が十分に厚い場合(皮膜厚さがビッカース圧子の最大押し込み深さの10倍以上)には、摩擦の影響は実用上無視しうるほど小さいと言えるが、皮膜がそれほど厚くない場合には、Hvに摩擦がかなり大きく影響する可能性のあることが明らかとなった。 また、既存のビッカース硬度試験機を改造し、上記のメッキ試験片について圧子の押し込み過程から除荷過程までの荷重P-変位delta線図のの変化につい調べた。その結果、下地が皮膜より軟らかい場合は、押し込み過程のP^<1/2>-delta線図は下に凸となり、傾きが大きく変化する点の押し込み変位delta′と皮膜厚さhとの比delta′/hの値は、試験荷重や皮膜厚さによらずほぼ一定になることが明らかになった。さらに、解析結果により、この点は下地に塑性域が拡大し始める点に対応していることが分かった。一方、下地が皮膜より硬い場合は、押し込み過程のP^<1/2>-delta線図は上に凸となるが、傾きの変化の程度は上記の場合より小さい。この理由は、下地の塑性域の広がりが皮膜の塑性域の領域に比べてかなり小さいためであることが解析結果より明らかとなった。
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