非圧縮性N・S方程式は乱流を含む種々の流れ現象の支配方程式であり、その計算法に関する研究は大変重要である。今までいくつかの方法が提案されているが、計算精度、効率と境界条件の取扱にまだ多くの問題が残っている。今回はこれらの問題を改善するために、新しいベクトル変数qを導入した定式化とそれに基づく計算法を考案した。 非圧縮性流の運動方程式に新しいベクトル変数qを導入し、慣性項、圧力勾配項と体積力項をqの回転で表した。さらに非定常項と粘性項をベクトル・ポテンシャルを導入して表すと、運動方程式を空間について積分することはでき、最終的にqを非斉次項に持つベクトル・ポテンシャルの熱伝導方程式に帰着することを見いだした。一方、qの定義から支配方程式系が閉じるために必要なqの楕円型方程式を構成した。新しい支配方程式は線形の運動方程式と非線形のソースを持つqのポアソン方程式からなる。 qの境界条件を考案し、新しい運動方程式を境界に適用したディリクレ条件が用いられることはわかった。ただし、この条件には積分常数が含まれる。単連結領域の問題の場合、積分常数が一つしかなく、これに任意の値に定めることはできる。多重連結領域の場合、閉じた境界の個数だけの積分常数がある。その中の一つは任意の値を取り得るが、その他は圧力の一価性条件から定まることを見いだした。 新しい支配方程式に対する効率的な計算法を構築した。また、多重連結領域の場合、qの境界条件で現れる積分常数を数値的に定める方法を開発した。2次元の計算法を3次元に拡張した。種々の問題に適用して、精度と計算効率を確認した。新しい定式化に基づく方法は従来の方法に比べ、以下の点で優れている、1)連続の条件を自動的に満たす。2)qの境界条件はディリクレ条件である。そのポアソン方程式は精度よく計算できる。3)運動方程式は線形であるため、計算量が少ない。 この課題の研究成果はいくつかの国際会議・国内会議で発表している。さらに、これらをまとめたものを学会誌に投稿する予定である。
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