研究概要 |
本研究では,正方形流路内の乱流伝熱場において,乱れによる熱輸送を支配する乱流熱流束の詳細な分布を明らかにすることを目的とした.まず,乱流熱流束を測定するに当たって,X形熱線速度プローブとI形冷線温度プローブを組合わせ,各センサーからの信号をコンピュータ処理によって瞬時速度信号と瞬時温度信号とに分離する3線プローブ方式と,過去に本研究室で開発されその有効性が確認されている鏡像プローブ法とを融合させた,新しい乱流熱流束計測システムを開発した.この計測法によれば,二次流れが発生する複雑な乱流場においても,乱流熱流束の高精度な測定が可能となる.この方法を用いて,まず最も基本的な流路である,流路壁が全て滑面から構成される正方形流路内の乱流熱流束を3成分全て測定した.その結果,主流方向の乱流熱流束の等値線分布は,変動速度強度や変動温度強度の分布と同様に,流路隅部へ大きく突出した形状をとることが明らかになった.次に,流路伝熱壁からの乱流熱輸送を支配する流路断面方向の乱流熱流束分布を,初めて実験的に明らかにした.この乱流熱流束分布は,乱流せん断応力分布と定性的によく似た特徴を示すが,断面方向の変動速度と変動温度の相互相関は,断面方向の変動速度と主流方向の変動速度との相互相関よりも全般に弱いことを明らかにした.また,この乱流熱流束分布には,流路断面の特定の位置に異符号閉領域が出現し,この閉領域の発生が二次流れを伴う乱流伝熱場の特徴であることも見出した.さらに,乱流熱流束と乱流せん断応力,および平均温度と平均速度の測定結果から,渦温度伝導率と渦動粘性係数を算出し,乱流プラントル数の分布を求めた.その結果,流路中心部分では乱流プラントル数はほぼ一定値をとるが,流路コーナー部近傍では壁面近傍ほど乱流プラントル数は増大する傾向を示し,従来の仮説に検討の余地があることを明らかにした.
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