研究概要 |
本研究では水溶液散布融雪の有効性を考察するための基礎として,NaCl水溶液を実際の雪層の上面に散布する融雪実験から,融雪過程のモデル化を検討した。本研究で得られた知見等の成果を以下に示す。 1.供給水溶液の初期濃度と雪層内の温度変化の関係 水溶液の浸透に伴い雪層温度は,初め水溶液の凝固点まで変化する。凝固点は温水で0℃だが水溶液では凝固点降下により濃度が高いほど低くなり,融雪熱量を多く見積もるため融雪は早く終了する。また雪層初期温度が凝固点より低い場合の雪層では,水溶液の浸透方向に対して緩やかな温度低下に続き大きな温度低下を示し,浸透が無い雪層は初期温度を示す。異なる初期濃度でも同様な温度分布を得た。 2.給・排水量及び排水濃度と融解過程の関連 雪層からの排水は浸透前面が雪層下面に到達した時点から始まる。排水開始直後の排水濃度は,雪層初期温度が0℃の場合で初期濃度より低く,雪層初期温度が凝固点より低い場合では逆に高く示された。前者は融雪初期に生じた融雪水が雪層内で水溶液を希釈するため,後者は浸透前面で生じる水分の凝固によるためといえる。浸透前面の凝固が上方の融雪水や供給水溶液の浸透を制限する結果として,雪層初期温度が凝固点より低いと排水開始後の早い時期で排水量が多い傾向を得た。実験では浸透前面の急激な雪層温度低下とともに,供給水溶液が雪層上面にあふれる融雪限界の状態が観察された。 3.融雪過程のモデル化と今後の展開 実験結果をもとに,浸透層,凝固層及び雪粒子層からなる融雪モデルを整理した。しかし新たに,浸透前面の凝固に起因する融雪限界の問題が確認された。今後,融雪早期の雪層温度や給水面状態の詳細な測定・観察を行い,融雪限界条件を包括した融雪過程の解析を行う。
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