研究概要 |
電界効果型の超伝導三端子素子は,ゲートに電圧を印加して超伝導体チャネル中のキャリアを制御しようとするものであるが,酸化物超伝導体を用いた研究においてはまだ大きな成果は得られていない。この原因の一つとして,大きな電界効果を得るための単位格子数個程度の厚さの良質な超伝導薄膜を作製するのが難しいという,製膜技術の問題がある。Bi系酸化物超伝導体Bi_2Sr_2Ca_<n-1>Cu_nO_xは,nの値により材料の特性が異なり,電界効果を系統的に調べるのに適しているが,その反面,理論的考察可能なデータを得るような良質な膜を作製しにくい材料である。申請者らのグループではこれまでに,薄膜としては世界最高の臨界温度を持つ薄膜をas-grownで得る方法を開発した。本研究ではこの高品質薄膜作製技術により製膜したBi系超伝導体の物性のゲート電圧依存性を調べ,Bi系超伝導体およびBi系超伝導体/絶縁体界面の物性の理論的,定量的検討を行うことを目的とした。本研究で得られた知見について以下に述べる。 1.積層膜の作製および結晶性の評価 Bi系超伝導体2201相(n=1)(BSCO)薄膜上に絶縁体としてSrTiO_3(STO)薄膜を積層させた。X線回折により結晶性を調べたところ,STO薄膜はBSCO薄膜上にエピタキシャル成長していることがわかった。680℃において成長させたSTO薄膜は表面平滑性,結晶性ともに良好であることがわかった。 2.電界効果の測定および考察 積層膜上にAgのゲート電極を設けたAg-STO-BSCO構造の試料において,ゲート電圧とBSCO薄膜の抵抗との関係を調べた。その結果,BSCO薄膜の抵抗-温度特性はゲート電圧により金属的なものから半導体的なものまで変化し,その変化の方向はキャリアをホールと考えた場合のものと一致した。これにより,BSCOチャネルのキャリア密度がゲート電圧により変化することが示唆された。
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