人間の脳の神経活動によって生ずる低周波磁気信号は、約0.1 以下と低周波地磁気のさらに1億分の1以下と極めて弱い。現在のところリアルタイムでこれらの微弱な磁気信号を検出できるセンサーは超伝導量子干渉デバイスいわゆるSQUID磁束計以外にない。ニオブ(Nb)のような金属系超伝導体を用いた低温SQUIDでは既に 10fT程度の磁場まで測定できるようになっており実際に脳磁場計が開発されている。但し、これを動作させるためには液体ヘリウム(温度:4.2K)による冷却が不可欠でありこれがシステムの大型化、高価格化を招き、普及を妨げる要因となっている。ところで、1986年の酸化物高温超伝導体の発見によって超伝導デバイスにおいて動作温度を液体窒素温度(77K)程度上昇させることを可能にした。本研究は生体磁気信号を検出するため、77Kで安定動作する高温SQUID応用を実現することを目指し、高温SQUIDの形状設計、作製及びその雑音発生機構の解明を行った。 本申請者は、自分らが開発したバイクリスタル基板上にエピタキシャル成長したYBCO人工粒界ジョセフソン接合を用い、ワッシャー型DC-SQUIDの形状選定や実験結果と設計値との比較、校正等の方法で、設計パラメーター及び計算式を確定した。これらの結果を基づいて最適化した77Kで安定動作SQUIDは、再現性や対称性良く、最大出力電圧約24muV 、最大磁束-電圧変換効率約68muV/phi_0の高い価が得られた。また、申請した超低雑音増幅器等を用いて、高温SQUIDの低周波1/f雑音の発生機構を調べたところ、その雑音の主な原因は磁束ゆらぎではなく、SQUIDを構成するジョセフソン接合の臨界電流ゆらぎであることを判明した。今後、これらの成果を基に、高温SQUIDの固有雑音発生機構をさらに解明し、雑音レベルを減少させていくことが重要な課題である。
|